『知識財産基本法』に関する政策 建議書
国家生存戦略の一環として、約20年前から本人が主導して制定した知識財産基本法の運用に関連して、次のように政策建議を大統領秘書室長に申し上げます。国家の未来のために必ず成し遂げていかなければならない知識財産政策に関する本建議を、前向きにご検討いただけますと幸いです。
1. 知識財産政策の重要性
(1) 特許、デザイン、商標、商号、ドメイン名、半導体チップの設計、営業秘密、技術秘密、フォント、植物新品種、微生物利用技術、フランチャイズ、電子商取引方法、ブロックチェーン技術、パブリシティ権などの産業財産権と、コンピュータープログラム、キャラクター、音楽、演劇、放送、語文著作物、美術著作物、図形著作物、建築物、写真、映画、ドラマ、データベース、コンテンツ、人工知能、トレードドレスなどの著作権を含む人間のすべての精神的創作物に関する知識財産権が日増しに重要視されています。 (2) 今や第4次産業革命時代に際してアナログ技術とデジタル技術とが融合し、かつ科学・技術と文化・芸術とが結合した商品とコンテンツが氾濫している中で、コロナワクチン技術、技術覇権と戦略資産確保、人工知能、ビッグデータ、メタバス、仮想通貨、自動運転車、ドローン、ChatGPT、ロボットなどがいつのまにか私たちの生活に深く入り込みました。 (3) 1987年、韓国の多くの半導体会社は米国のテキサスインスツルメンツの特許権侵害でなんと1億9千万ドルの損害賠償をした事実があり、携帯電話に対して韓国で1,700件余りの特許を持っている米国のクアルコム社は最近10年間、韓国の多くの携帯電話会社から約5兆ウォンのロイヤルティを受け取り、ウォルトディズニー社はミッキーマウス一つのみで1996年の一年間で全世界から187億ドルを稼ぎました。 (4) MP3プレーヤーは1997年、韓国のセハン情報システムが世界で初めて開発して2001年に韓国で特許を取得したが、経営悪化で2004年に米国のアイリバー(Iriver)社に特許権を譲渡してしまい、他方では2001年にアップルがMP3プレーヤーのアイポッド(ipod)を発売してアイリバー(Iriver)社の商品と世界市場で競争したこともあります。振り返ってみると、この時期に韓国の大手企業がセハン情報システムのMP3プレーヤーの特許を譲り受けて熱心に営業活動をしたとしたら、全世界の音楽市場を席巻したかも知れないと思われます。 (5) 三星とアップルとが社運をかけて全世界にわたって莫大な訴訟費用をかけて繰り広げたスマートフォン特許侵害訴訟を見ても、知識財産がどれほど重要な企業の資産であるかが簡単に分かります。 (6) 米国のニューヨーク証券取引所に上場している500大企業の資産を評価した統計を見てみると、1970年代には知識財産など無形資産の比重が平均10%程度であったが、2022年には無形資産の比重が平均90%以上となり、国連の傘下団体である世界知的所有権機関(WIPO)によると、過去25年間で知識財産の価値がなんと10倍も増加したと報告されています。 (7) 2007年1月に締結した韓米自由貿易協定と2010年10月に締結した韓EU自由貿易協定の内容にも知識財産部分が相当な地位を占めています。 (8) 李洛淵元国務総理、丁世均元国務総理、尹鍾龍三星電子元副会長と丁相朝教授は皆国家知識財産委員会の委員長を歴任しながら経験したところに基づき、政府組織法を改正してでも特許、デザイン、商標などの業務を取り扱う特許庁と文化体育観光部の著作権業務を統合して知識財産処を設立してこそ政策のシナジー効果を出すことができると提案したこともあります。 (9) 韓国科学技術団体総連合会と韓国芸術団体総連合会と同様に、2020年10月、すべての産業財産権と著作権団体が力を合わせて設立した知識財産団体総連合会は、総合的な知識財産政策を一緒に議論しようとする実務上の必要に応じて設けられたのであります。
2. 知識財産政策に関する国際環境
(1) 世界知的所有権機関(WIPO)は、1970年に設立され、産業財産権と著作権を共に取り扱う国連の傘下機関であり、2023年現在193カ国が会員国として加入しており、韓国は1979年に加入しました。 (2) 2020年にスイスの国際経営開発研究所が発表した世界63カ国の知識財産政策の執行に対する評価によると、韓国は国内総生産対比研究開発投資の割合が2位であり、特許出願件数は4位であったが、政府の政策執行の効率性は34位でありました。 (3) 米国は2008年、知識財産に関する資源と組織の優先化法(The Prioritizing
Resources and Organization for Intellectual Property Act of 2008)を施行しつつ、大統領直属の知識財産執行調整官(Intellectual Property Enforcement Coordinator)制度を新設し、大臣級の知識財産執行調整官がすべての知識財産政策について大統領に直接報告しています。 (4) 日本は2002年に知的財産基本法を施行しつつ、総理大臣が知的財産戦略本部長を引き受けてすべての行政省庁の知的財産政策を直接指揮しており、知的財産高等裁判所も運営しています。 (5) 欧州連合は1977年から欧州特許庁を運営しており、特に欧州連合27カ国は2023年6月から欧州統一特許裁判所まで運営しています。 (6) イギリス、スイス、ベルギー、カナダ、ルクセンブルク、タイ、ロシアは特許など産業財産権と著作権を一緒に取り取り扱う知識財産庁ですべての知識財産政策を樹立しており、フランスは産業財産権と著作権を一つの法で規定しています。 (7) 中国は2008年、国家知識財産権戦略委員会を設立し、国務院所属の23の省庁が国を挙げて知識財産戦略を樹立しています。
3. 知識財産基本法制定の経緯
(1) 私は1972年から弁理士として活動していますが、天然資源のない狭い国土に多くの人口を持つ韓国が頭脳資産で生存戦略を樹立し、将来知識財産強国となることを夢見てきました。 (2) 私は2005年、知識財産フォーラムという団体を作り、2006年に国会事務処から社団法人の認可を受けて知識財産基本法の制定運動を主導してきました。 (3) 2009年11月、国会議員102人が署名した知識財産基本法案(李鍾赫 当時国会議員の代表発議)が国会に提出されました。 (4) 2010年8月、13の政府省庁が合同で知識財産基本法案が制定されるよう努力し、政府案も国会に提出されました。 (5) 結局、政府立法案に議員立法案を追加し、国会政務委員会が独自の法案を作って2011年4月20日、知識財産基本法案を通過させることになり、続いてこの法案は2011年4月29日、国会本会議を通過し、2011年7月20日から施行されました。 (6) この法律により国家知識財産委員会が設けられ、同委員会は委員長として国務総理と民間人の2人を共同委員長とし、委員は企画財政部、教育部、科学技術情報通信部、外交部、統一部、法務部、行政安全部、文化体育観光部、農林畜産食品部、産業通商資源部、保健福祉部、環境部、国土交通部、海洋水産部、中小ベンチャー企業部、国家情報院、国務調整室、放送通信委員会、公正取引委員会、金融委員会、関税庁、文化財庁、特許庁、気象庁など24の中央行政機関の大臣および長官と知識財産分野に学識と経験が豊富な民間人を含めて40人以内で構成することになりました。
4. 知識財産基本法の施行成果
(1) 大統領所属の国家知識財産委員会が新設され、国家知識財産委員会の業務を支援するために知識財産戦略企画団が設けられました。 (2) これまで3回にわたる知識財産政策5カ年計画を汎政府的に樹立し、その成果を毎年国会に報告しています。 (3) 特許侵害訴訟の1審が全国の各地方裁判所から高等裁判所がある6ヶ所の地方裁判所に変更・集中され、これに対する不服は特許裁判所で行うことになり訴訟期間が画期的に短縮されました。 (4) 国会内に与野党議員で世界特許ハブ国家推進委員会が構成されて多くの立法活動をしており、知識財産基本法で毎年9月4日を「知識財産の日」と定めました。 (5) 国際特許訴訟事件を韓国に誘致するために裁判所組織法を改正し、特許侵害訴訟当事者が同意すれば、英語で弁論ができるようになりました。 (6) 2023年には史上初めて知識財産に対する担保貸し出し、投資および保証などの金額が年間9兆6,100億ウォンに達し、知識財産に関する金融を活性化させるために金融機関自体に知識財産の価値を評価する知識財産評価管理センターを新設しました。 (7) 韓国は国内外の特許出願件数で世界4位、世界5大国際標準化機構が公認した標準技術数で3位を記録しています。 (8) 2023年、韓国の知識財産権貿易収支が初めて年間1億8千万ドルの黒字を出したが、その理由は特許権、商標権など産業財産権分野では依然として赤字であったにも拘わらず、韓流文化の影響で著作権分野が22億1千万ドルの黒字を出したからであります。 (9) 2025年からは知識財産科目を採択する高校の数が193校に拡大され、発明教育が活性化されます。 (10) 技術流出時の営業秘密原本証明制度を活用して営業秘密を積極的に保護するようになり、営業秘密侵害に対する刑事処罰の上方修正、知識財産権の故意侵害時の証拠確保が難しい点を勘案して損害額の5倍まで賠償する制度を採択し、国家が指定した先端技術の海外流出時には最大18年の懲役までに上方修正し、防衛産業技術保護法を制定し、技術警察を新設して特許庁の特別司法警察組織を大きく拡大しました。 (11) 産業界、大学、研究所間に全国的な協力ネットワークを構築し、相互研究開発を促進するようになり、全国27の地域に知識財産センターを設立したことにより地方の中小企業と小商工人の知識財産の創出と活用を強化しました。 (12) 政府と民間の様々な分野で特許ビッグデータを分析し、産業動向分析、有望技術分野の発掘、R&D効率化および企業の戦略樹立時に有用に活用しています。特に国家戦略技術、先端技術などの分野で政府R&D課題遂行時に特許の調査分析を義務的に実施するよう関連法に反映し、知識財産基盤の研究開発事業を実施するようにしました。 (13) 特許無効率の顕著な低下、特許審査と特許審判の処理期間を大幅に短縮し、特に半導体、二次電池および人工知能分野の審査官を大幅に採用したことによりこの分野の先端技術者が外国に流出されることを防止すると同時に、この分野の審査期間も画期的に短縮しました。 (14) 独占規制及び公正取引に関する法律に基づく知識財産権の不当な行使と下請取引における不当な技術侵害の防止に関する指針を設けました。 (15) 韓国企業の知識財産権を海外で積極的に保護するために米国、中国、日本、ドイツをはじめ8カ国に10の海外知識財産保護センターを設け、知識財産権尊重文化の拡散により偽物商品が急減し、関税庁の模造品通関保留および返送制度の施行により模造品取り締まりに注目に値する成果がありました。 (16) 研究者が正当な補償を受けられるように、政府は職務発明補償優秀企業認証制度を運営しながら職務発明活性化のための基盤を改善しました。
5. 政策建議
(1) 政府委員会整備に関する法律 (イ) 2011年7月20日、知識財産基本法の施行当時には国家知識財産委員会が大統領所属であったが、2022年9月30日、国家知識財産委員会を大統領所属から国務総理所属に変更する政府委員会整備に関する法律改正案が政府案として国会に提出されています。 (ロ) もちろん大統領所属の委員会数が19となり、整備する必要はあったと思われますが、1960年代初め、大統領主宰の下で輸出振興拡大会議が開催されて当時の輸出振興に多大な貢献をしたように現在国務総理と民間人の2人の委員長が共同で主宰する国家知識財産委員会を大統領所属に存置させながら、むしろ大統領が主宰する体制に変更してこそ半導体、防衛産業、携帯電話、自動車、船舶など知識財産に基盤を置いた産業を画期的に促進させることができます。 (ハ) 国家知識財産委員会を大統領所属から国務総理所属に変更すると、国家競争力を高めて熾烈な国際知識財産戦争で生き残ろうとする国家生存戦略の樹立を事実上放棄したような印象を対内外に与えるようになるため、どうかご再考頂けますことを切に建議いたします。 (ニ) 知識財産基本法による国家知識財産委員会に24の中央行政部の大臣と長官が委員として出席するほど、知識財産に関する政策は汎国家的に樹立されるものであるにもかかわらず、国家知識財産委員会を国務総理所属の現在の80の委員会の一つに格下げしたのは、知識財産政策が国家的にそれほど重要ではないと見過ごしてしまった結果であります。 (ホ) 大統領所属の国家建築政策委員会、国家図書館委員会、アジア文化中心都市調整委員会、国家生命倫理審議委員会、素材部品装備産業委員会、競争力強化委員会および国家水管理委員会などはすべて国家的な大きな課題ではあるが、多くの省庁が実際に政策を執行していたり、共同で政策を樹立しなければならない業務ではないため、国務総理や関係省庁所属に変更しても事実上大きな支障はないと思われます。 (ヘ) 人工知能に関する例を見てみると、現在11の省庁が相互意見を調整しないまま、法制定案と改正案を国会に提出している実情を見ても、知識財産政策は高度な選択と集中が要求されるため、国家知識財産委員会が大統領所属に存置されてこそ、各省庁の利害衝突を能率的に調整することができます。国家知識財産委員会が国務総理所属に変更された法案が提出されて以降、知識財産関連各省庁の政策実務者らの士気が落ちたことはもちろんであり、あたかも知識財産政策は我が国でこれ以上重要な課題ではないことが公式に宣言された雰囲気であります。 (ト) 仮想通貨、気候協約、炭素国境税、原産地に関する地理的表示、遺伝資源、伝統知識、植物新品種、パブリシティ権など新しい知識財産政策課題は、単にいずれかの省庁だけの検討で政策を樹立することができるものではありません。このような政策は、たとえ国務総理が共同委員長として会議を主宰しているとしても汎国家的な業務であるため、国務総理が直接各省庁の利害衝突を調整することも難しいだけでなく、大統領所属でなければ大統領に報告する必要もなくなるため、国家知識財産委員会の地位が弱まることは明らかであります。したがって、国家知識財産委員会を大統領所属に存置させることが知識財産基本法の趣旨と国際的な流れにも合致します。 (チ) 国家知識財産委員会が大統領所属の機構であるため、国家知識財産委員会のすべての議決事項が当然大統領に直接報告されると知っていましたが、法規定がなかったため報告されていませんでした。この部分は立法不備であるため、国家知識財産委員会のすべての議決事項が大統領に必ず報告されるようにする法規定を新設することを建議します。 (リ) 貿易依存度の高い韓国の生存戦略は、各省庁に散在している知識財産政策にあり、これを調整、統括する機能と役割が国家知識財産委員会に与えられた以上、国家知識財産委員会が形式的にのみ大統領所属として存置させることではなく、名実ともに知識財産に関するコントロールタワーの役割を遂行できるよう必ず大統領所属として存置させなければなりません。
(2) 知識財産基本法施行令の改正
(イ) 知識財産基本法が初めて施行された当時には国家知識財産委員会の主管省庁が国務総理傘下の国務調整室であったが、今は知識財産基本法施行令第9条第1項で科学技術情報通信部大臣が国家知識財産基本計画を樹立しなければならないという規定により科学技術情報通信部が主管省庁となりました。この法の制定運動を主導し、この法案を作った張本人である私の意図とは全く違う運営をしており、深く遺憾に思います。 (ロ) 24の中央行政省庁の大臣と長官が出席する汎国家的知識財産政策のうち、相当部分に科学技術および研究開発に関する事項が含まれていることは事実であるが、科学技術情報通信部が国のすべての知識財産政策を主導することは短見と言わざるを得ません。実際に科学技術情報通信部が主管省庁になってからは、商標、デザイン、営業秘密、植物新品種、トレードドレス、音楽、映画、美術、建築物、写真、その他著作権のように科学技術に関連性がないか、海外への技術流出など主要課題に対する推進動力が低下しました。また、関連大臣の出席がほとんど見られなくなり、他の関連省庁との業務協力も円滑に行われていないことが現実であります。 (ハ) ここに、国家知識財産委員会の主管省庁を科学技術情報通信部から国務総理傘下の国務調整室に還元させて下さることを切に建議します。これは、法改正なしに大統領令である知識財産基本法施行令の改正だけで可能な事項であります。
(3) 知識財産戦略企画団の運営
先進国とは異なり、国家知識財産委員会の主管省庁が国務調整室から科学技術情報通信部に変更された後、国家知識財産委員会の業務支援機構である知識財産戦略企画団の地位も事実上格下げされ、頻繁な人事異動と主要補職の空白により体系的で、かつ連続性のある政策樹立に大きな支障をもたらしており、その結果、2023年には行政安全部が組織診断をして局長級の席を完全になくしてしまい、人員が大幅に縮小されたところ、知識財産戦略企画団の業務の重要性を考慮し、組織の強化に努めていただけますと幸いです。
(4) 大統領室内の知識財産政策担当秘書官
国家知識財産委員会の役割と機能が果たして汎国家的な業務であれば、その議決事項もまた国家的に非常に重要な内容であるため、国家知識財産委員会のすべての議決事項を大統領に直接報告できるようにたとえ米国のような大臣級の知識財産執行調整官制度はなくても知識財産政策担当秘書官を大統領室内に置くようにすることを建議いたします。
6. 結び
最も高く飛ぶ鳥が一番遠くを見ると言います。 世界的な強国として位置づけられている米国の力の根源は知識財産政策に基盤を置いており、今これに挑戦する中国も知識財産権の確保に政府のすべての力を集中しています。せっかく宇宙航空庁の設立をはじめ、K-カルチャーで先進国の座に近づいた韓国が、今日の位置を堅固に守るためには、目の前に見える問題に劣らず、遠くを見通す国家の眼目が切実な時であります。千辛万苦の末に制定された知識財産基本法がうまく運営され、再び大韓民国が跳躍する契機になることを心よりお祈り申し上げます。
2024年5月7日 弁理士 金明信 |